質問・回答コーナー

よくあるご質問について

自己血貯血を行いますか?

原則として自己血は貯血しません。その理由は、手術時の出血量が少ないため、そもそも輸血を必要としないからです。また、自己血を採取することで、採血量に応じた貧血を手術前にきたしてしまいます。
採血から手術までの数週間の間に回復する血液量は実はわずかです。わざわざ体力を落とした状態で手術に臨むことは望ましいことではないと考えています。また、自己血といえども全く安全なわけではありません。
採取した血液が凝固しないために薬剤を混合して保存する必要がありますし、採血の際に皮膚常在菌などがわずかでも紛れ込めば保存期間の間に増殖します。いざ輸血を行う際に、細菌が培養増殖した血液を自分に輸血するという不条理なことが生じる危険性もあるからです。

ただし、自己血貯血をあえて希望される場合にはそのようにおっしゃってください。対応いたします。

骨セメント(接着剤)を使用しますか?

膝関節では使用しますが、股関節では使用しません。人工膝関節では骨セメントを用いることが一般的ですが、骨セメントの必要量が少ないため大きな合併症は生じにくいとされています。
股関節の場合、膝とは骨の形態が異なるため、骨セメントを使用しなくても手術を上手に行えば充分に良好な固定が得られます。実際、当院では骨セメントを使用しなくても全例で翌日に全荷重可能です。現在、日本のなかで人工股関節に骨セメントを使用しない割合は80~90%近くになっています。

いつから立てる? 歩ける?

翌日から全例で全荷重で立てます。通常は手術翌日から歩行器で歩行できます。また、同時にリハビリ室での歩行訓練も開始します。術後1週間を目途に独歩を開始しますが、もともと杖を使っていた方は杖も併用することがあります。そして階段練習やお座敷での立ち座りの練習が済めば、退院可能となります。

退院までの日数は?

あまり急ぐ必要は感じていませんが、早ければ10日前後、平均で2~3週間というところです。
膝関節の場合はもともと手術時の平均年齢が高いため、3~4週間かけることが多いかもしれません。
また、両側同時手術の場合も状態に応じて調整する必要があります。遠隔地にお住まいのご高齢の方などで十分なリハビリを希望される場合は、3ヵ月程度までゆっくり入院していただくことも可能です。

両側とも悪い場合は?

股関節あるいは膝関節の両側ともに手術が必要な場合、片方ずつゆっくり治療することもできますし、両側同時に手術することもできます。片方ずつの場合は、先に手術を行った脚の力が片脚立ちができる程度に強くなってから、反対側の治療をするほうがよいでしょう。また、術後の貧血が回復するのを待ちたいため、手術の間隔は1~2ヵ月程度が適切でしょう。

しかし、最近は同時に手術を行う場合が多くなっています。両側同時に手術を行っても、翌日には立って歩行器で歩けることには変わりありません。車椅子は乗り降りが大変なので、室内や廊下内などは歩行器の方が楽です。最初の数日は片脚手術に比べて動きやすさに多少の差がありますが、1週間を過ぎると大きな差はなくなってきます。両方とも同時に痛みがなくなるため、楽しくリハビリができると考えて下さい。総入院期間も当然短くて済みます。

出血量は必ず2倍になることに一応は注意が必要ですが、今のところ両側同時手術の方でも輸血を必要としたことはありません。

また、心機能の障害や肺血栓塞栓症など循環や呼吸に関する合併症は両側同時のほうがやや起こりやすいと報告されています。年齢や合併症など、術前の全身状態をよく評価し、両側同時手術の長所と短所をきちんと天秤にかけたうえで方針を決定しましょう。

人工股関節後の脱臼の確率は?

当院では0.7%と説明しています。特別な難症例まで合わせてこの数字ですので、通常程度の変形の場合、確率はもっと低くなります。短外旋筋群や後方関節包をできるだけ温存する低侵襲手術を行っていますので、なかなか簡単には脱臼しません。

日常生活に何か制限はありますか?

日常生活動作に制限はありません。普通に歩くことはもちろん、階段昇降や自動車の運転も可能です。
人工股関節の場合、膝が悪くない限り正座や自転車を漕ぐこともOKです。人工膝関節の場合は、残念ながら術後に正座ができるまでの可動域は期待できませんので、洋式の生活様式を確立して下さい。

スポーツはできるでしょうか?

すでに統計学的な結果がでています。ジョギングなどのように上下に衝撃荷重が発生する動きは避けたほうがよいとされていますが、ウォーキングなど比較的衝撃が少ない運動は問題ありません。
具体的にはエアロビクスやシングルスのテニスは避けるべきですが、水泳やサイクリング、ダブルスで楽しく行うテニス程度は推奨できます。ゴルフも問題ありませんが、右効きのゴルファーはスイング動作で右膝を捻りますので、右人工膝関節を受けた場合のみゴルフを控えたほうが良いかもしれません。人工股関節は捻りに強いので、ゴルフに問題はありません。

人工関節後の感染の確率は?

当院では0.2%程度と説明していますが、高性能のクリーンルームで手術用ヘルメットを用いて手術を行い、充分な消毒や適切な抗生剤の使用に留意するなどできるだけ感染を発生させないよう心がけています。
実際のところは当院での人工関節の感染発生数は未だゼロのままです。

どれぐらい長持ちしますか?

個人差が大きく、種々の条件が影響するため、一概に言うことは難しいのですが、現在使用されている人工関節は20~30年は保つであろうと期待されています。
しかし、ごく少ない確率ですが、15年程度で部分取り替えが必要になるケースもあるかもしれません。できるだけ長持ちするように、丁寧な手術を心がけています。

退院後は通院が必要ですか?

自分で歩けて日常生活動作が充分行えることが退院の条件ですので、退院後はリハビリテーションに通っていただく必要はありません。

定期の経過観察としては術後6週間、3ヵ月、6ヵ月、1年、その後は1~2年毎に外来通院していただいています。他府県など遠方にお住まいの場合は、状況に合わせて対応しています。

将来、いつかは人工関節に緩みやガタつきが生じてくる可能性はあります。1~2年毎に受診していただければ、悪くなった部分が発生しても早期に見つけることができます。
そうすれば、簡単な部分取り替え手術だけで対応することができるのです。久し振りに受診されたときには既に全体が悪くなっていて全部を取り替えなければだめ、ということを避けるために、痛みがなくても定期的な通院をお願いします。1~2年に一度だけで済みますので。

手術をさせていただいた患者様全員と一生のお付き合いをさせていただくつもりですが、若い患者様の場合は執刀医のほうが早くリタイアしてしまうかもしれない、というのが最近の悩みです。